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【第1部】インド半導体戦略の夜明け:巨大市場と地政学が交差する時

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はじめに:なぜ今、インドが半導体なのか?

近年、世界のテクノロジー業界で「インド」の存在感が急速に高まっています。特に、現代産業の根幹をなす「半導体」の分野で、インドは国家の威信をかけた壮大なプロジェクトを始動させました。それは単なる産業振興策ではありません。急成長する国内経済と、激動する国際情勢という二つの巨大な歯車が噛み合った、必然の国家戦略なのです。

この連載ブログでは、3回にわたってインドの半導体戦略を深掘りします。第1部となる今回は、インドがなぜ今、この困難な挑戦に乗り出したのか、その戦略的な背景と、プロジェクトを牽引する主要プレーヤーたちの動きに迫ります。

爆発する国内市場:「デジタル・インディア」から「シリコン主権」へ

インドの野心の根底にあるのは、爆発的に拡大する国内市場です。インドの半導体市場は、2030年までに1,000億ドル(約15兆円)を超える巨大市場へと成長すると予測されています。スマートフォン、自動車、データセンターなど、あらゆる分野で半導体の需要が急増しているのです。

しかし、その需要の実に90%以上を輸入に依存しているのが現状です。これは経済安全保障上の大きな脆弱性であり、この構造的な問題を解決することが国家的な急務となっています。政府はまず、携帯電話の国内生産を促す「生産連動型優遇策(PLIスキーム)」で大成功を収めました。この成功体験が、「次は半導体だ」という大きな自信と推進力を生み出したのです。

地政学が生んだ好機:「チャイナ・プラスワン」の追い風

米中間の技術覇権争いやパンデミックによるサプライチェーンの混乱は、世界中の企業に「中国への一極集中リスク」を痛感させました。そこで浮上したのが、「チャイナ・プラスワン」という考え方です。多くのグローバル企業が、中国以外の国に新たな生産拠点を求め始めました。

インドは、この歴史的なチャンスを逃しませんでした。自国を「安定的で信頼できるパートナー」として位置づけ、米国、日本、EUなどと積極的に連携。半導体協力に関する覚書(MoU)を次々と締結し、海外からの投資を呼び込むための強力な追い風を作り出しています。

国家プロジェクトの司令塔:「インド半導体ミッション(ISM)」とは?

この壮大な戦略を具体的に推進するのが、2021年に設立された専門機関「インド半導体ミッション(ISM)」です。初期予算約100億ドル(約1.5兆円)という巨額の資金を元に、国内外の企業に対して大胆なインセンティブを提供しています。

その中でも特に注目すべきは、半導体工場(ファブ)の建設に対し、プロジェクト費用の最大50%を政府が補助するという破格の支援策です。ただし、これは企業が自己資金を投じた分に合わせて政府が資金を出す「パリパス」方式。これにより、本気で長期的なコミットメントを持つ企業だけを誘致する、巧みな仕組みになっています。

エコシステム構築の主役たち

ISMの呼びかけに応じ、すでに国内外のビッグプレーヤーたちが動き出しています。

  • 米国の錨:マイクロン・テクノロジー
    メモリ半導体の世界大手であるマイクロンは、グジャラート州に巨大な後工程(ATMP)施設を建設中です。これはインドの半導体戦略における最初の大きな成功事例であり、他の海外企業への強力なメッセージとなっています。
  • 国内の旗手:タタ・グループ
    インド最大のコングロマリットであるタタは、台湾のPSMCと組み、インド初の本格的な商用半導体ファブを建設します。さらに、後工程(OSAT)施設も建設するなど、まさに「フルスタック」で半導体事業に挑んでいます。国家の野心を体現する、国内のチャンピオンの存在は極めて重要です。
  • 戦略的パートナーシップ:フォックスコンとHCL
    iPhoneの製造で知られる台湾のフォックスコンは、インドのIT大手HCLと提携。海外の製造ノウハウと、インド国内の知見を組み合わせるこのハイブリッドモデルは、今後の成功テンプレートとなる可能性があります。

第1部のまとめと次回予告

今回は、インドが半導体国家を目指す背景にある、巨大な国内需要と地政学的な好機、そしてそれを実現するための国家戦略「ISM」と主要プレーヤーたちを見てきました。壮大な計画は、まさに今、力強く動き出しています。

しかし、その前途は決して平坦ではありません。次回の第2部では、インドが乗り越えなければならない「インフラ」と「人材」という二つの巨大な壁について、深く掘り下げていきます。どうぞご期待ください。

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