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日本の教育、このままで大丈夫?世界から学ぶ「未来を生き抜く力」の育て方

日本の教育、このままで大丈夫?世界から学ぶ「未来を生き抜く力」の育て方
「最近、日本の元気がないな…」と感じることはありませんか?
実は、その感覚はデータにもはっきりと表れています。IMD(スイスのビジネススクール)が発表した2024年の「世界競争力ランキング」で、日本はなんと過去最低の38位。かつては世界一だったのが、信じられない順位です。
それだけではありません。
- 起業する人が少ない: 新しい会社が生まれる割合(開業率)は、米英の半分以下。
- デジタルが苦手: 国民のデジタルスキルは、調査対象67カ国の中でまさかの最下位。
- お金の知識に自信がない: 「金融知識に自信がある」と答えた日本人はたったの12%。アメリカの71%と比べると、寂しくなりますね。
「なぜ、こんなことになってしまったんだろう?」
でも、希望の光も!日本人の隠れた”すごい底力”
ここまで見ると、少し暗い気持ちになってしまいますよね。でも、落ち込んでばかりもいられません。実は、私たち日本人には、世界に誇れるすごい”底力”があることをご存知でしたか?
OECD(経済協力開発機構)が実施した「国際成人力調査(PIAAC)」という、いわば「大人の学力テスト」のような調査があります。この結果が、日本の大きな希望の光なんです。
- 「読解力」と「数的思考力」は世界トップクラス! 文章を正確に読み解く力も、数字を使って論理的に考える力も、参加国の中で第2位という素晴らしい結果でした。
- そして、なんと「問題解決能力」は世界第1位相当! 状況の変化に応じて、どうすればいいかを考える力が、世界で一番得意だという評価を受けたのです。
これは、難しい課題に直面しても、粘り強く考えて答えを導き出す「地頭の良さ」が、私たちには備わっている証拠です。一部のエリートだけでなく、国民全体の平均レベルが高いのが日本のすごいところ。これは、先人たちが築き上げてきた質の高い義務教育の賜物と言えるでしょう。
では、なぜこんなに素晴らしい力があるのに、ビジネスやデジタルの世界で苦戦しているのでしょうか?
その根本的な原因の一つが、実は「教育」にあるのかもしれません。この素晴らしい”底力”を、新しい価値を生み出す力や、自分の人生を豊かにする力に「つなげる」方法を、私たちはまだ十分に学んでいないのではないでしょうか。
この記事では、世界のユニークな教育と、そこから見える日本の課題、そして未来への希望を、分かりやすく解き明かしていきます。

世界はこんなに面白い!未来を見据えた国々の「戦略的教育」
世界に目を向けると、国の未来を本気で考えた、驚くような教育がたくさんあります。いくつか覗いてみましょう。
【シンガポール】お金の英才教育!国家ぐるみで金融のプロを育てる
資源の少ないシンガポールは、「人こそが資源」という考えのもと、教育に莫大な投資をしています。特に力を入れているのが、国民全員の金融リテラシーを高める国家プロジェクト「MoneySense」。
小学校では「欲しいものと必要なものの違い」を学び、社会人になれば住宅ローンや投資、老後の資産設計まで、ライフステージに合わせた超実践的な知識を、国が主導して無料で教えてくれるんです。まさに、国全体が「お金の学校」のようですね。
【エストニア】IT先進国の秘密は学校に!小学生から起業家マインドを学ぶ
人口約130万人の小国ながら、Skypeなどを生んだIT先進国エストニア。その強さの秘密は、徹底したデジタル教育と起業家教育にあります。
行政サービスの99%がオンライン化され、学校ではデジタル技術を安全に使いこなす能力が徹底的に教えられます。さらにすごいのが、「Edu ja Tegu(成功と行動)」という起業家教育プログラム。これは単に会社の作り方を教えるのではなく、「社会の課題を見つけて、新しい価値を創造する力」そのものを、幼稚園から大学まで一貫して育てることを目指しています。
【フィンランド】宿題なし、テストなし、でも学力世界トップクラス!
フィンランド教育のキーワードは「平等」と「信頼」。家が貧しくても、どこに住んでいても、誰もが同じ質の高い教育を無料で受けられます。全国一斉テストはなく、他人と比べられることもありません。
この仕組みを支えているのが、大学院卒が必須という、非常に専門性の高い先生たち。国は先生を信頼し、授業のやり方は現場に任されています。だからこそ、子どもたちは競争のプレッシャーなく、自らの興味をとことん追求できるのです。その結果、学習時間は短いのに、学力も幸福度も高いという、理想的な状態が生まれています。
【台湾】イングリッシュネームは当たり前?グローバル社会を生き抜く戦略
台湾では、多くの人が中国語の本名とは別にイングリッシュネームを持っています。これは、小学校の英語の授業で先生が付けてくれたり、一緒に考えたりすることから始まる、ユニークな文化です。
なぜこんなことをするのでしょうか?理由はとても実利的。発音が難しい中国語の名前より、英語名のほうが世界中の人とスムーズにコミュニケーションが取れるからです。グローバル社会で生き抜くためなら、文化的なこだわりよりも実利を取る。そんな台湾のしたたかな戦略が垣間見えます。
【深掘り】アメリカの「人生の羅針盤」教育がスゴい!
さて、数ある海外事例の中でも、今の日本が最も学ぶべきは、アメリカのキャリア開発支援システムかもしれません。
アメリカの学校には、「スクールカウンセラー」という専門家がいます。彼らは、日本の「進路指導の先生」とは少し違います。
彼らの仕事は、「勉強(学業)」「将来の夢(キャリア)」「心の問題(社会性・情緒)」という、子どもたちが抱える3つの悩みを、バラバラにではなく、一人の人間の成長として丸ごとサポートすること。
- 「最近、勉強に集中できないな…」→ もしかしたら、友達関係に悩みがあるのかも?
- 「将来やりたいことが見つからない…」→ じゃあ、君の得意なことや好きなことを一緒に探してみよう!
こんな風に、生徒一人ひとりに寄り添い、人生の羅針盤となってくれる存在なのです。
この仕組みは、実は100年以上の歴史があります。特に大きな転機となったのが、1957年の「スプートニク・ショック」。ソ連に世界初の人工衛星打ち上げで先を越されたアメリカは、「科学技術で負けてはならない!」と国家的な危機感を抱きました。そして、優秀な理数系の子どもたちを発掘し、未来の科学者へと導くための国家戦略として、スクールカウンセラーを全国の学校に配置したのです。
「個人の自己実現」だけでなく、「国家の未来を担う人材を育てる」という強い目的があったからこそ、スクールカウンセラーは専門職として確立し、国全体の重要なインフラになったのです。
ひるがえって日本は? GIGAスクール構想の落とし穴
世界のすごい教育を見た後で、日本の現状を振り返ってみましょう。
「職場体験ごっこ」で終わるキャリア教育
1999年から始まった日本のキャリア教育。しかし、多くの学校で「数日間の職場体験」がメインとなり、体験から何を学び、どう自分の将来に繋げるかという一番大切な部分が、おろそかになりがちでした。
最新PCを配ったけど…GIGAスクール構想の現実
コロナ禍を機に、全国の小中学生に1人1台のタブレットが配備されたGIGAスクール構想。ハードウェアは世界トップクラスになりました。でも、現実はどうでしょう?
まるで、「F1マシンは手に入れたけど、誰も運転の仕方を知らない」状態。
多くの学校で、タブレットは調べ物や黒板の代わりに使われる程度。先生たちもICTの専門家ではなく、どう活用すればいいか戸惑っています。最新の道具を手に入れても、それを使うための「教育の中身(OS)」が古いままでは、宝の持ち腐れです。
金融教育、先生も困ってます!
2022年度から高校で必修化された金融教育。でも、現場は大変です。ある調査では、金融教育を行う上で「教える側の専門知識が不足している」と感じる先生が半数近くもいました。先生自身も学生時代に金融教育を受けていないのですから、当然かもしれません。
日本に足りない、たった一つのもの
ここまで見てきて、日本の教育に足りないものが、おぼろげながら見えてきたのではないでしょうか。
それは、「専門的なハブ(結びつける役目)機能」です。
- 生徒の中でバラバラになっている「勉強・進路・心」の悩みを繋ぐハブ。
- 閉鎖的になりがちな「学校」と、企業の専門家や地域社会といった「社会」を繋ぐハブ。
- 金融やデジタルといった「新しい知識」と、それを教える「現場の先生」を繋ぐハブ。
アメリカのスクールカウンセラーのように、専門的な知識を持って全体をコーディネートし、一人ひとりに寄り添う存在が、日本の教育システムには制度として欠けているのです。この「統合・連携機能の欠如」こそが、日本の教育が抱える最大の課題と言えるでしょう。
【未来への提言】日本の教育はこう変わる!ワクワクする教室の姿
暗い話が続きましたが、希望はあります。世界の良いところを学び、日本の良さと組み合わせれば、私たちの教育はもっと面白く、もっとパワフルになれるはずです。ここに、未来の教育のための具体的なプランを提案します。
提言①:新教科「ライフ&エコノミック・デザイン」をはじめよう!
今の「キャリア教育」を進化させ、もっとワクワクする新しい教科を導入します。その名も「ライフ&エコノミック・デザイン教育」。自分の人生(ライフ)と、それを取り巻く経済(エコノミック)を、主体的に設計(デザイン)する力を育む授業です。
- 金融リテラシー: シンガポールのように、貯金や投資、保険といった「お金の知識」を体系的に学び、経済的に自立する力をつけます。
- アントレプレナーシップ: エストニアのように、「社会の課題を見つけ、新しい価値を創造する勇気と知恵」を学びます。
テストは、知識の暗記ではなく、「地域の課題を解決するビジネスプランを発表する」といった実践的なものに。評価するのは先生だけでなく、地域の起業家や専門家も参加します。
提言②:「教育デザイン・カウンセラー」を全学校に!
この新しい教育を実現するために、アメリカのスクールカウンセラーを日本版に進化させた新しい専門職、「教育デザイン・カウンセラー(仮称)」を創設し、全国の学校に配置します。
彼らは、心理学やキャリア理論、経済の知識まで持つ専門家。その役割は、まさに「戦略的ハブ」です。
- 統合する人(インテグレーター): 生徒一人ひとりと面談し、成績や興味、性格などをまとめた「個別カルテ」を作成。勉強も夢も心も、トータルでサポートします。
- 繋ぐ人(コーディネーター): 先生たちの相談に乗ったり、地域の企業や専門家と学校を繋いで、インターンシップやゲスト授業を実現させます。
- 分析する人(アナライザー): GIGAスクールで得られる学習データを分析し、科学的な根拠に基づいて、一人ひとりに最適なアドバイスをします。
提言③:「正解のない問い」に挑戦する授業を!
フィンランドの「現象ベース学習」のように、教科の壁を取り払った探究学習を教育の中心に据えます。
「どうすれば、地元の商店街を元気にできる?」
「100年後も安心して暮らせるエネルギー社会って?」
こうした「正解のない問い」に、生徒たちがチームで挑みます。その過程で、国語や数学、理科といった知識を道具として使いこなし、「学び方そのもの」を学んでいくのです。
さいごに:未来への最高の投資、それは「教育」
日本の未来は、公共事業や経済対策だけで切り拓けるものではありません。未来を創るのは、いつの時代も「人」です。
教育への投資は、すぐに結果が出るものではありません。しかし、これこそが、最も確実で、最も持続可能な成長戦略です。
この記事で提案したような教育改革は、子どもたち一人ひとりの未来を輝かせるだけでなく、日本という国全体を、再び元気に、そして創造性あふれる社会へと変えていく力を持っていると信じています。
あなたのお子さんの未来、そして日本の未来は、教育を変えることから始まります。

編集者: マイソリューションズ編集部 https://hr.my-sol.net/contact/