1. 主要ページへ移動
  2. メニューへ移動
  3. ページ下へ移動

メディア

記事公開日

【経営者必読・歴史に学ぶ組織論④】 「改善」か「革命」か?戦後日本、運命の分岐点 〜明治憲法・幻の改正案・現行憲法、3つの設計図を比較する〜

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

はじめに:その組織改革は「リフォーム」ですか?「リノベーション」ですか?

これまでの連載で、明治憲法という国家の「設計図」が、その構造的欠陥によっていかに組織(国家)を危機に陥れたかを見てきました。今回は、その欠陥だらけの家を、戦後の日本人が「どう直そうとしたのか」、そして結果的に「どう建て替えられたのか」を探ります。

ここで光を当てるのが、歴史の表舞台から消えた幻の設計図、「松本草案」です。この草案と、明治憲法、そして現行の日本国憲法を比較することで、組織変革における重大な問いが浮かび上がります。それは、「既存の枠組みの修正(リフォーム)」で十分なのか、それとも「根本思想からの再構築(リノベーション)」が必要なのか、という問いです。これは、あらゆる組織のリーダーが直面する経営課題そのものです。

「改善」を目指した幻の設計図:松本草案の構造

敗戦後、日本政府はポツダム宣言に基づき、憲法の民主的改正に取り組みました。その中心となったのが、松本烝治国務大臣が率いた憲法問題調査委員会です。彼らが目指したのは、あくまで明治憲法の「改正」、つまりリフォームでした。

松本草案の基本思想は、明治憲法の骨格を維持することにありました。その最大の特徴は、「天皇が統治権を総攬(そうらん)する」という大原則を変更しない、と明言した点です。これは、主権の所在という家の「基礎」には手をつけない、という強い意志の表れでした。

一方で、明治憲法の致命的な欠陥、つまり「二重政府」問題に対しては、明確な「修正パッチ」を当てようとしました。

  • 統帥権の独立を廃止し、軍の統帥も内閣の助言のもとに行うと規定。
  • 天皇の大権を制限し、議会の権限を拡大する。
  • 国務大臣が議会に対して責任を負うことを明確化する。

これらは、軍部の暴走を二度と許さないための、的確な改善策でした。しかし、GHQ(連合国軍総司令部)は、この「リフォーム案」を「到底受け入れられない」と一蹴します。なぜなら、家の基礎である「天皇主権」という構造が変わらない限り、また同じ問題が起きると考えたからです。

「革命」を迫ったGHQと日本国憲法の誕生

松本草案を保守的すぎると判断したGHQは、自ら起草した草案(マッカーサー草案)を日本政府に提示します。それは、もはや「改正」ではなく、全く新しい設計思想に基づく「革命」、つまり家の建て替え(リノベーション)を迫るものでした。

その構造転換は、根本的なものでした。

  • 国民主権: 「天皇主権」から「国民主権」へ。家の所有者が、大家(天皇)から住民(国民)へと変わりました。天皇は統治者ではなく、「国民統合の象徴」と位置づけられました。
  • 戦争放棄: 「二重政府」問題の根源であった軍隊そのものを憲法上持たない、というラディカルな解決策を提示しました。
  • 基本的人権の尊重: 「臣民の権利」から「侵すことのできない永久の権利」へ。人権は、国家から与えられるものではなく、生まれながらに持つ普遍的なものへと変わりました。

もちろん、この「建て替え」は、一方的な押し付けだけで進んだわけではありません。GHQ草案を元にしながらも、日本側の議論の中で重要な修正が加えられました。有名なのが、第9条2項の冒頭に「前項の目的を達するため」という文言を加えた「芦田修正」や、GHQ案の一院制に対して日本側が主張し認められた「二院制」の維持などです。

3つの憲法、その構造的違いが一目でわかる比較表

これら3つの「設計図」が、組織の根幹をどう規定していたのか。その違いは、以下の表で明らかです。

項目 大日本帝国憲法(明治憲法) 憲法改正要綱(松本草案) 日本国憲法(現行憲法)
主権 天皇主権 天皇主権(維持) 国民主権
天皇の地位 統治権の総攬者(元首) 統治権の総攬者(権限は制限) 国民統合の象徴
軍隊と統帥権 統帥権は独立し、天皇に直属 軍は存置、統帥権の独立は廃止 戦力不保持、交戦権の否認
議会と内閣 天皇の大権が強く、議会の権限は限定的 議会の権限を強化し、内閣は議会に責任を負う 国会は国権の最高機関、議院内閣制
基本的人権 臣民の権利(法律の範囲内で保障) 人民の権利・自由の保護を強化 侵すことのできない永久の権利

結論:あなたの組織は「改善」で済むのか、「革命」が必要か?

松本草案の試みは、私たちに重要な教訓を与えてくれます。それは、問題の根本原因にメスを入れず、表面的な「改善」を繰り返しても、組織は真に変われないということです。松本らは、明治憲法の問題点を的確に認識しながらも、「天皇主権」という根本思想の枠から出ることができませんでした。

一方で、日本国憲法は、外部からの強い圧力という特殊な状況下ではありましたが、主権の所在という根本構造から作り変える「革命」によって、全く新しい組織(国家)の形を生み出しました。

経営者の皆様に問います。あなたの組織が抱える問題に直面した時、目先の業務改善やルール変更といった「リフォーム」で済ませてはいないでしょうか?時には痛みを伴っても、組織の「憲法」ともいえる企業理念や権力構造、事業の前提そのものにまで踏み込む「リノベーション」が必要な時があるのではないでしょうか。

歴史という壮大なケーススタディは、組織変革の本質が、小手先の修正ではなく、根本的な構造転換にあることを教えてくれています。

第一回:https://hr.my-sol.net/media/useful/a183

第二回:https://hr.my-sol.net/media/useful/a184

第三回:https://hr.my-sol.net/media/useful/a185

編集者: マイソリューションズ編集部
https://hr.my-sol.net/contact/
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Contact

お問い合わせ

動力マネジメントに関するご質問や研修内容に関するご相談やお見積り依頼、
各研修に関するお役立ち資料をダウンロードは以下よりお問い合わせください。

無料セミナー

動力マネジメントに関する無料セミナーを行っております。お気軽にご参加ください。

資料ダウンロード

各研修に関する資料、動力マネジメントに関するお役立ち情報はこちらからダウンロードはいただけます。

60分無料相談・お問い合わせ

動力マネジメントに関するご質問や各研修内容に関するご相談や60分無料相談はこちらからご相談ください。