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【連載第1回】「合理的」と「論理的」は違う?ビジネスを停滞させる思考の罠

はじめに:あなたの判断は「合理的」?それとも「論理的」?
ビジネスシーンで頻繁に使われる「合理的(ラショナル)」と「論理的(ロジカル)」という言葉。あなたは、この2つの違いを明確に説明できますか?
多くの人がこれらを同じような意味で使っていますが、実はその本質は全く異なります。そして、この違いを理解しないまま下される「合理的な判断」こそが、時として組織の成長を止め、イノベーションの芽を摘んでしまう罠になることがあるのです。
本連載では3回にわたり、「合理的」と「論理的」の決定的 な違いを、弊社が提唱する「動力マネジメント」の視点から解き明かしていきます。第1回は、まずこの2つの言葉の定義と、なぜ「合理性」が危険な罠になりうるのかについて考えていきましょう。
「論理的」と「合理的」の決定的な違いとは?
思考の"プロセス"を重視する「論理的」
「論理的」とは、物事の筋道が通っている状態を指します。「AならばB、BならばC、よってAならばC」という三段論法のように、前提から結論に至るまでのプロセスに矛盾がないことが重要視されます。思考の「過程」や「構造」の正しさが論理性の本質です。
例:「顧客からの問い合わせが増えている(事実A)。だから、サポート担当者を増員すべきだ(結論B)。」
これは、一見筋道が通っており、「論理的」な思考と言えるでしょう。
目的達成の"効率"を重視する「合理的」
一方、「合理的」とは、ある目的に対して最も効率的で無駄がない状態を指します。ゴールに到達するために、コスト、時間、手間などを最小限に抑える選択をすることが合理的な判断です。こちらは、プロセスの美しさよりも「結果」や「効果」が重視されます。
例:上記の例で、「サポート担当者を増員すると人件費が大幅に増加する(コスト)。それよりも、FAQページを充実させて問い合わせ自体を減らす方が、低コストで迅速に問題を解決できる(効率)。」
これは、目的(顧客満足度の維持・向上)に対して、より無駄のない選択であり、「合理的」な判断と言えます。
なぜ「合理的な判断」がイノベーションを阻害するのか
既存の事業を改善し、効率化を進める上では、「合理的な判断」は非常に強力な武器となります。しかし、未知の領域であるイノベーションを目指す場面では、その合理性が足かせとなるケースが少なくありません。
これは、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が提唱した「イノベーションのジレンマ」として知られています。巨大企業が優れた経営判断、つまり「合理的な」意思決定を続けることで、破壊的イノベーションに対応できず、新興企業に市場を奪われてしまう現象です。
- 既存の顧客が求めない技術への投資は合理的ではない。
- 市場が存在するか不透明な分野への投資は合理的ではない。
- 短期的な利益が見込めない事業へのリソース配分は合理的ではない。
このように、既存の事業フレームワークの中で「合理的」な判断を下せば下すほど、未来の大きな可能性を持つ新しい芽は摘み取られてしまうのです。なぜなら、イノベーションの源泉は、多くの場合、論理で説明できても、既存の物差しでは測れない「非合理的」な情熱や個人の「わがまま」から生まれるからです。
結論:見直すべきは「合理性」の物差し
「論理的」に考えることは、あらゆるビジネスの土台として不可欠です。しかし、「合理的」であろうとしすぎるあまり、既存の成功体験や評価基準に縛られてはいないでしょうか。
もしあなたの組織で新しいアイデアが生まれにくくなっているとしたら、それは「合理性」という名の思考の罠にはまっているのかもしれません。
次回は、この「合理性の罠」から脱却し、イノベーションを生み出す鍵となる「動力マネジメント」について詳しく解説します。個人の「非合理的」な情熱を、いかにして組織の力に変えていくのか。ご期待ください。
第一回:https://hr.my-sol.net/media/useful/a188
第二回:https://hr.my-sol.net/media/useful/a189
第三回:https://hr.my-sol.net/media/useful/a190
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