記事公開日
離職防止に効果的な面談術と成功体験の作り方

人材不足が深刻化する現代において、新入社員や若手の早期離職防止が企業の重要課題となっています。単なる人件費削減だけでなく、組織の成長と競争力維持のために、効果的な定着率向上策が求められています。
若手育成のキーワードは「やりがい」と「上司の関与」
新入社員・若手研修を毎年実施している中で、「入社後、最もうれしかったコミュニケーションの機会は何ですか?」という匿名アンケートを実施すると、「定期面談をしてくれる」という回答が上位に挙がってきます。
年間約500名の新人研修受講者のうち、7割が「長く働きたい」と回答している一方で、3割が「長く働きたくない」「わからない」と答えています。長く働きたい理由として以下が挙げられます:
- 上司が熱心に指導してくれる
- 定期的に相談機会を作ってくれる
- しっかりと目標設定してくれる
- 親しみやすく、自分の価値観に合っている
特に中小企業では、「大手に落ちて入社した」「家が近いから」「受かったから」という動機で入社する方も多く、そうした場合、最初の段階でロイヤリティを高めるために上司側の関与がカギとなります。
社員がすぐ辞める……離職が多い職場の問題点
離職が問題となっている企業の多くは、成功体験を積むことができていないという共通点があります。
興味深い事例として、ゴルフの統計データがあります。ゴルフを始めてから2年7ヶ月以内にスコアが115を下回らなければ、辞めてしまうというデータが存在します。これは仕事にも通じており、早期に成功体験を積ませることが離職を防ぐ最も効果的なマネジメントだと言えます。
多くの場合、仕事に合う・合わないを十分にジャッジできるレベルまで到達する前に「自分には合わない」と見切りをつけてしまうケースが多く見られます。これを防ぐためには:
- 必要な成果を出すための必要な行動量を定量的に設定
- 段階的な成功体験を積めるプログラムの構築
- 適切なタイミングでのフィードバック
離職続きの会社が定着率を上げるまでの道のり
実際の改善事例として、テレアポを中心とした営業会社の取り組みを紹介します。以前は新卒が入社直後から「1日60件」のテレアポを求められ、受注までの道のりが長いため成功体験を感じづらく、離職が多発していました。
改善のポイントは、受注という最終成果ではなく、段階的なKPI設定と適切なフィードバック文化の構築でした:
段階的指標の例(営業の場合)
段階 | 指標 | フィードバックのポイント |
---|---|---|
初期 | 架電数(週500件) | 「500件掛けられた。すごいじゃないですか」 |
中期 | アポ数、案件化数 | 行動量の継続とプロセス改善を評価 |
後期 | 見積提示数、契約数 | 結果指標の達成を自然に実現 |
重要なのは、数字を設定するだけでなく、そこに対してしっかりとフィードバックをしてあげることがセットであることです。周囲からの適切な評価がなければ、成功体験は味わえません。
定期面談でやってはいけないNG行為
定期面談の目的は、社員のモチベーション向上と成長促進です。効果的な面談を行うためには、部下の現状を正確に把握し、適切なフィードバックを提供する必要があります。
やってはいけない面談の特徴
- 目的意識の共有や事前準備不足
- 上司が多く話してしまう(叱責・雑談のみ)
- 相手の話を途中で遮る
- ながら作業で聞く
- 明確なゴール提示ができていない
現代の管理職に求められることの第1位は「ゴールをしっかりと提示してくれるか」です:
- いつまでにどんな成果を上げてほしいのか?
- いつまでにどんな知識・スキルを身につけてほしいのか?
- いつまでにどんな役割行動を担ってほしいのか?
1on1は"部下本人に話をさせること"が重要
1on1の本質は本人の状況把握であり、本人に話させることが重要です。まじめな上司ほど「ちゃんと伝えなければ」と思い、一方的にフィードバックしてしまいがちですが、これは逆効果になる可能性があります。
- 聞き方を重視する
- 部下の発言を最後まで聞く
- 相談時は手を止めて向き合う
- 具体的な状況把握に努める
対話の力で部下の本音を引き出す方法
優れたリーダーが重視するのは「議論」ではなく「対話」です。議論は過去の正解探しや白・黒の決着を目指すのに対し、対話は「お互いの解釈の更新」を目指します。
「きっかけ砂時計」モデル
効果的な対話を進めるための「きっかけ砂時計」というフレームワークがあります:
段階 | 内容 | ポイント |
---|---|---|
き | 興味・関心 | 広いテーマでヒアリング |
つ | 積み上げ | 過去の経験・学びを整理 |
か | 改善提案 | 具体的な解決策を検討 |
け | 懸念払拭 | リスクや不安要素をクリア |
重要なのは下半分(改善提案・懸念払拭)であり、ここに十分な時間を使うことで部下の行動変容を促進できます。
上司のアドバイスの限界と効果的な育成方法
営業1万人のデータから明らかになった重要な事実があります。上司のアドバイスだけで伸びるのは12人に1人(8.6%)の逸材のみです。
成長に影響を与える要素の序列
- 🥇 お客さまからのフィードバック(最も効果的)
- 🥈 やりきって成功する体験
- 🥉 上司からのアドバイス(効果は限定的)
この結果から、経営者や上司の真の仕事は環境作りであることが分かります。アドバイス自体に価値があると思うのではなく、部下が成功体験を積み、お客さまから直接フィードバックを得られる環境を構築することが重要です。
まとめ:継続的な学習と成長の文化を築く
離職防止と人材育成を成功させるためには、以下の要素を組織的に実践することが不可欠です:
- 段階的なKPI設計と適切なフィードバック文化
- 部下の状況把握を重視した面談の実施
- 「対話」による解釈の相互更新
- 成功体験を積める環境の整備
- お客さまからの直接フィードバック機会の創出
変化の激しい現代において、組織の競争優位性は個々の社員が持つ知識の総量ではなく、組織全体が持つ「学び続ける能力」によって決まります。
一過性のイベント型研修から脱却し、継続的な学習の旅(ラーニングジャーニー)を設計し、推進すること。それこそが、不確実な未来を勝ち抜くための最も確実な人材開発戦略と言えるでしょう。
マイソリューションズでは、本記事でご紹介したような科学的根拠に基づく研修設計の実績や、人材育成に役立つコラムを多数掲載しています。貴社の人材育成戦略をさらに加速させるヒントがきっと見つかります。ぜひ、人材育成お役立ち情報もご覧ください。
関連リンク
社員がバタバタと辞める"離職の多い職場"の問題点 定着率を上げる面談のコツと"やってはいけないNG行為" - ログミーBusiness編集者: マイソリューションズ編集部 https://hr.my-sol.net/contact/