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中小企業にこそ知って欲しい! 「認知力」を引き出す人材育成

「勉強できるのに仕事はできない」人に足りない「認知力」とは?
「あの人、勉強できたらしいのに、仕事はね…」
そう言われる人、周囲にいませんか。正解のあるテストの「学力」があっても、正解の存在しない社会では通用しないと言われますが、そういう人は、実は「認知力」が足りていないのかもしれません。
そもそも個別の経験や知識はバラバラに頭に入っているだけでは利用できない「死んだ知識」です。これを、その経験・知識に意味を与え、整理・適度に抽象化して有機的につなげたものが「生きた知識」。その際に活躍するのが「認知力」と「記号接地」です。
この「認知力」と「記号接地」、ちょっとしたキッカケで飛躍的に向上させることができます。人材育成に悩む中小企業にこそ、その重要性を知って欲しいものです。

「勉強できるのに、仕事はね…」と言われる人に足りないものとは?
「あの人、勉強できる(学歴高い・良い大学出てる)のに、仕事はね…」
そんな風に思う人、言われる人、周囲にいませんか。
「学校は答えがある世界だからね」と納得したり、「(説明したことが)なんでできないんだ」と頭ごなしに叱ったりしていませんか。どれも、もったいないことかも知れません。
「勉強できる」ということは知的な処理能力自体は高いわけですし、説明を聞いて分かったつもりでも自分では解けない、ということは誰にでもあることです。それでは、なぜそのようなことが起きるのでしょうか。
ここで少なくとも言えることは、そう言われる人たちでは経験や知識が「生きていない」、つまり「学力」や「経験」があってもそれは「死んだ知識」「死んだ経験」である、ということです。
「死んだ知識」とは?
「死んだ知識」とは、「知識として当人の頭に入ってはいるが、それを使える状態になっていない」ものです。例えば、人に説明されると「そうか」と思うが自分一人ではできないもの。指摘されると「確かにそう」と思うのに、自分一人でやろうとするとできないことなどです。
どの例も、言われると「確かにそう」思うということは、当人にそれを理解するだけの知識も経験もあるのに、自分の中からは出てこなかったものです。これらの例では、その「死んだ知識」を「生きた知識」に変えられれば、劇的な変化が見られるようになります。
「死んだ知識」を「生きた知識」に変えるもの
では、「死んだ知識」を「生きた知識」に変えるには、どうしたら良いのでしょうか。昔は「ひたすら繰り返す」ことで「量から質への転換」に期待する方法が主流でしたが、時間もかかり、当人に忍耐を強いるため、現代的ではありません。
この考え方に代わるのが「認知力」「記号接地」です。少々強引な言い換えをすると「そういうことか!」という気づきの瞬間を持つことと言えます。
「認知力」「記号接地」とは
「認知力」や「記号接地」とは何でしょうか。人は成長過程で、個別的な出来事を抽象化して枠組みで理解する能力を持っています。例えば、様々な犬種を見ても「犬」と認識できるのは、試行錯誤しながら「犬とは何か」という枠組みを学習するからです。これが「認知」です。
仕事における「認知」とは、「これをやると、次に何が起きるか」といった原因-結果を伴う想定、つまり時間軸を対象とした認知も含まれます。「かも知れない運転」のように、目の前の事象から背景を推論し、抽象的な知識を当てはめて具体的な行動に移す。この一連のプロセスが「記号接地」です。
ちょっとしたキッカケで変わる「認知力」と「記号接地」
古代ギリシャの科学者アルキメデスが、風呂からこぼれる水を見て「ユウレカ!(わかった!)」と叫んだ逸話は有名です。これは「比重」「体積」「重量」というバラバラだった「死んだ知識」が、ある瞬間につながり「生きた知識」になった例です。
仕事の場面でも、この「そういうことか」の瞬間をどれだけ効率的・効果的に生み出すかが、人材育成の重要な点と言えます。そのために有効なのが、育成対象者に「答え合わせ」の機会を提供することです。
「そうだったのか」を引き出す人材育成
ここで人材育成の観点で大切なのが、「当人に考えさせる」ことです。育成者に求められるのは「教える」のではなく「考えて貰う」能力。自分の分かっていることを説明したくなるのをこらえ、「なぜ?」「どうすれば?」といった質問を繰り返すことが重要です。
このようなコーチング的なアプローチや、定期的な1on1ミーティングでの対話は、当人が自分事として思考の枠組みを作る手助けになります。その結果、「そうだったのか」と気づいて貰えた知識・経験は、一方的に教えられたものより、はるかに当人のものとして定着します。
中小企業にこそ、「認知力」の人材育成を
この「認知力」を引き出す人材育成は、特に中小企業でこそ大切です。多くの中小企業が人材不足や採用コストの増加に悩む中、既存人材の育成の重要性は増しています。
「認知力」の育成は、当人の中にあるものを「引き出す」アプローチです。そのため、従来の集合研修などと比べて、当人の納得感も高く、組織への貢献効果も期待できると考えられます。
まとめ
「死んだ知識」を「生きた知識」に変える鍵は、「認知力」です。そして「認知力」は、「そうだったのか」という気づきの経験を通して育まれます。これは、当人の中にあるバラバラな知識・経験を、視点を変えてつなげることで得られるものです。
それを引き出すのに重要なのは、説明力よりも質問力。質問力を通じて部下の「わかった!」を引き出すことは、見た目ほど簡単ではありませんが、適切に行えれば、これまでの人材育成よりも高い効果が期待できるでしょう。
