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静かな退職”を防ぐマネジメント戦略

静かな退職とは?組織の活力を奪う見えざる危機への処方箋
表面的には出社し、業務をこなし、最低限の責任を果たしている。上司に逆らうこともなく、目立ったトラブルも起こさない。それは果たして組織にとっていい状態と言えるでしょうか?もしかするとそんな社員は、実はすでに「心だけが職場を離れている」状態かもしれません。これが今、多くの企業で課題視されている“静かな退職”の正体です。
このような状態は目に見えづらいため、マネジメント層が気づくのが遅れがちです。しかし、放置しておくと、チーム内の士気の低下、協力関係の崩壊、生産性の停滞といった連鎖的な影響を引き起こし、組織全体のパフォーマンスが大きく損なわれていきます。

静かな退職とは?
静かな退職(Quiet Quitting)とは、従業員が表向きは業務をこなしながらも、心理的には仕事への関与を最小限に抑え、成長や貢献への意欲を失っている状態を指します。離職届が出されるわけではないため見えづらく、企業側が気づいたときには、すでにチームや職場に深刻な影響が出ていることも珍しくありません。
しかし、この状態は多くの場合、「やる気がない人」の問題ではなく、期待が共有されていない/対話が足りない/報われる実感がないといった組織側の環境要因が重なって生じています。だからこそ、“静かな退職”はマネジメントによって防ぐことが可能な現象でもあります。
見過ごされがちな兆候をどう読み解くか?
静かな退職は、爆発的に表面化する問題ではなく、静かに、しかし確実に職場の熱量を奪っていくプロセスです。以下のような兆候を見逃さないことが、初期段階での対処につながります。
- 発言や提案の回数が減る
→ 意見が通らなかった経験、または“聞かれない”と感じた過去の蓄積 - 業務はこなすが、成長の姿勢が見られない
→ 成果と評価の不一致が、やがて努力をやめさせてしまう - 「感謝」や「共感」が減る
→ 組織への感情的つながりが薄れると、人間関係も希薄に - フィードバックへの反応が乏しくなる
→「言われても変わらない」「聞くだけ無駄」と感じ始める
これらはすべて、“関係性の冷却”という現象です。行動の変化だけでなく、内面的な温度の低下に敏感であることが、マネージャーに求められる視点です。
背景にある“離れたくなる職場”の構造
静かな退職が生まれる背景には、本人の個人的なモチベーションだけでなく、職場全体の文化やマネジメントスタイルが影響しています。
🔹 信頼の断絶
上司との対話不足、部下の状況把握の欠如、心理的安全性の欠如は、社員に「ここでは本音を出せない」「どうせ変わらない」という無力感をもたらします。
🔹 努力が報われない経験
頑張ったのに正当に評価されなかった。提案しても握りつぶされた。こうした経験が繰り返されると、社員は「もう期待しない」と心を閉ざします。
🔹 成長機会や挑戦機会の欠如
惰性の業務が続き、目標も評価も曖昧なまま日々が過ぎる。変化も学びもない状態では、どんな優秀な人材でも情熱を失ってしまいます。
これらの要因が積み重なると、社員はやがて「仕事はこなすけど、心は関与しない」という選択を無意識に下すようになります。
静かな退職が組織に与える影響
静かな退職が組織に与える影響としては以下があげられます。
- 生産性の低下:従業員のエンゲージメントが低いことが世界経済に年間約9兆ドルの損失をもたらしていると報告されています。また、調査によると、正社員の約44.5%が「静かな退職」を実践しており、そのうちの約70%が今後もその状態を続けたいと回答しています。
- エンゲージメントの低下:日本の従業員のエンゲージメント率が世界で最も低く、わずか6%であるとされています。ちなみにグローバル平均は23%です。比較するといかに日本のエンゲージメント率が低いかがわかります。
マネジメントが“つながり”を取り戻す
静かな退職に対処するには、「やる気を出させる」よりも先に、「何が心を離れさせたのか」に向き合う必要があります。そのために有効なマネジメントアプローチは以下の通りです。
✅ 感情に触れる1on1の対話
タスクの確認ではなく、価値観・やりがい・不安などに焦点を当てた対話を行う。
こちらを参考ください。→マネジメント能力の基本!1on1面談マニュアル
✅ “小さな挑戦”の余白を設計する
裁量あるミッションや、自分で決められる領域を設けることで、社員が「自分が組織に影響を与えている」と実感できます。
✅ 認知と感謝の文化をつくる
「ありがとう」「助かった」という言葉が自然に飛び交う職場では、人は“誰かの役に立てている”と感じやすくなり、貢献意欲が回復します。
まとめ
静かな退職とは、「辞める前のサイン」であり、「関係が壊れる前のサイン」でもあります。このサインに気づけるか、そして丁寧に対話できるかが、マネジメントの成熟度を問う分岐点です。
いま必要なのは、「頑張らせる」のではなく、「また一歩踏み出したくなる」職場環境を整えることです。そのためには、信頼、挑戦、承認という3つの要素を日々のマネジメントに組み込んでいくことが不可欠です。
仕事への心が離れる前に、人と人との“つながり”を育むことが、静かな退職を防ぎ、組織の健やかな成長を支える基盤となります。
