1. 主要ページへ移動
  2. メニューへ移動
  3. ページ下へ移動

メディア

記事公開日

最終更新日

日本人は人間関係が苦手?! -日本的マネジメントは「人の尊重」から-

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ちょっとしたお困りごとでもお気軽にご相談ください

2024年末に発表されたOECD2023のデータと分析結果の項目の一つに、「賃金に影響する要因」というのがあります。調査参加国を比較するため、時給ベースでのデータです。その調査結果では、日本の時給は「個人の性格」と「職歴(在職期間)」によって決まる割合が高いと報告されています。

その一方、日本人が「足りていない」と感じるスキルは「チームワークやリーダーシップ」「コミュニケーションとプレゼンスキル」「PJマネジメントや組織スキル」等の、組織やコミュニケーションに関するものが他国に比べてダントツに多いとの結果も出ています。

転職市場などで求められるスキルでは、30代以降でリーダーシップやマネジメントスキルが重視されると言われていますが、日本が近年見習ってきた欧米的マネジメントトレーニングでは人材については、会社経営に役立つ「心理学的」見方を学ぶものが多いようです。これらは「組織から見た、技術的な側面の人的アプローチ」と言えます。

 しかし、当人の「性格」や「在職期間」、言い換えれば「人づきあいの深さや長さ」が重視される日本では、分析的人間関係ではなく、お互いの「信頼」や「安心感」に基づくアプローチがマネジメントでも重要と考えられます。人間関係の「信頼」や「安心感」は「人としての互いの尊重」から生まれます。

 日本で今、マネジメントトレーニングに大切なのは、「人の尊重」のための考え方や哲学、その具体的方法を学ぶものと考えられます。

関連ページ
OECD国際成人力調査日本人に関するレポート
中小企業にこそ知って欲しい!「認知力」を引き出す人材育成


日本の賃金は「キャラ」と「職歴」で決まる

OECDがPIAAC(Programme for International Assessment of Adult Competencies (成人競争度の国際評価)2023で発表したデータの中に、各国の時給多寡の決定要因分析という項目があります。主な項目は五つ。「成人習熟度」「教育年数」「専攻」「個人の性格」「在職期間」の五項目です。この調査に参加した自由主義31の国と地域各国を比較すると、日本には他国と顕著に違う特徴が見られます。それが「個人の性格」、言い換えれば「キャラ」、および「在職期間」つまり職歴が給与に与える要因の高さです。

 図1と図2は、この二つを要因とする比率の各国比較です。

図1「就業期間」が時給の影響要因となる割合(%)、各国比較

時給の決定要因が「在職期間」「個人の性格」共に一位です。近年変化が見えるとは言え、日本の給与体系が年功序列型であった名残がここにみられるようですが、もう一方の「個人の性格」というのも興味深い要因と言えます。この二つが給与の多寡に影響があるということは、「長い付き合いで良い人間関係が構築できている」ことが仕事に好影響を及ぼすということと考えられます。


図2「個人の性格」が時給の影響要因となる割合(%)、各国比較

著者の経験でも、業務トラブルで休日出勤した際、システム担当の助けが必要になり、ご自宅に連絡して急な対応をお願いしたことがあります。この時のお返事は

xxさんのヘルプ要請ですから」。

ありがたい話で、仕事が進むのは悪いことではありませんが、会社業務で「xxさんの要請」はよく考えれば不思議とも言えます。終身雇用が減り転職が増えるトレンドの中でこの傾向は変わっていくのかも知れません。

実際、OECD/PIAACでは2012年にも同様の調査を行っていて(サイクル1)、今回調査(サイクル2)との変化が確認できますが、2012年調査では「在職期間」要因は10.0%8.8%とマイナス1.2%、「個人の性格」は14.0%9.1%とマイナス4.9%で、各国比較では一位ではありますが、その要因比率は低下しています。それでも、依然として他国に比べてこの二つの要因が強いのは、日本的特徴と言ってよいでしょう。

今や「学歴社会」ではない日本

日本は長く「学歴社会」と言われてきましたが、同データで日本は下位から三 番目。また、要因五項目のうち「教育年数」が一位であった国・地域は28か国。一位でない国・地域は日本を含むフランス(二位)・エストニアとラトビア(三位)4か国・地域のみで、要因の三位内に入らなかったのは日本だけです。最も教育年数要因の強かったシンガポールの21.1%と比べると、四分の一という結果です。

図3 「教育年数」が時給の影響要因となる割合(%)、各国比較

大学の「ブランド」等による社会生活スタート時点の違いはあると思われますが、「教育年数」という形の「学歴」は時給多寡の決定要因になっていません。
今や日本は「学歴社会」とは言えないということが、今回のOECD/PIAAC2023調査結果から見えてきます。

それでも、組織・人間関係の苦手な日本人

こうしてみると、組織の中の人間関係の潤滑さを重視することが日本人の特徴であり、そこにこそ強みがある、と言いたくなりますが、別のデータでは組織内の振る舞いや人間関係に悩む姿も見えてきます。

OECD PIAAC2023では「種類別の不足スキル」という調査も行っています。複数回答のため、要因比率を足し合わせると100%を超えますが、それだけに不足と感じているスキルが網羅的に確認できていると思われます。

図4 人間関係三項目のスキル不足比率(足し算)

この調査では、スキル不足を感じるものの選択肢として「機器操作」「PJマネジメントや組織スキル」「チームワークやリーダーシップ」「顧客・患者・生徒対応」「コミュニケーションやプレゼンテーション」「外国語」「数字・計算」「その他」という項目が挙げられました。面白いのは、八項目ある内の半分が組織内外の人間関係スキルであることです。この内、組織内での振る舞い・人間関係に関する「PJマネジメントや組織スキル」「チームワークやリーダーシップ」「コミュニケーションやプレゼンテーション」の三つを取り出して確認すると、日本では「PJマネジメントや組織スキル」が38.8%で二位(一位はニュージーランドの39.3%)、「チームワークやリーダーシップ」が39.9%で一位、「コミュニケーションやプレゼンテーション」が39.4%で二位(一位はシンガポールの40.8%)、この三項目でのスキル不足を感じる割合が31か国・地域中、一位または二位という結果が出ています。また、この三項目の 比率を足した結果が図4の通り一位との結果になります。項目的に類似しているので当然と思われるかも知れませんが、三項目で三位のニュージーランドの場合、「コミュニケーションやプレゼンテーション」は31か国・地域中で9位との結果なので、
必ずしも三項目すべてで同様の傾向というわけではなさそうです。時給に影響する要因の多くが人間関係との結果が出ている一方、日本人は人間関係に関するスキル不足を感じているという結果が出ているのは、少々皮肉にも思われます。人間関係が重要だから、なおさらそのスキルが気になると言えるのかも知れません。また、見方によっては「かつては終身雇用で阿吽の呼吸で仕事ができたが、最近は流動性も高く業務が細分化されて外部の人たちとのコミュニケーションが必要になり、長くて深い人間関係だけでは仕事ができなくなった」ということを意味しているのかも知れません。

 

どの世代にも求められる組織・人間関係スキル

OECDデータから少し離れ、職業に必要なスキルについて見てみましょう。

転職市場では業務スキルを①ポータブルスキル(会社・業種にかかわらず必要とされるスキル)と②テクニカルスキル(専門的な知識・技術)に分けて考えます。組織・人間関係に関するスキルは①に入ります。これを世代別に分けて見ると、ポータブルスキル全般は常に求められますが、30代にはリーダー経験、40代になるとマネジメントスキル、50代にはその「水準の高さ」が加わります。

結局、どの世代に関しても組織・人間関係スキルは常に求められものであると言えます。

特に、リーダーシップやマネジメントスキルは、日本ではかつて個別の「スキル」とは考えられていませんでした。これは、年功序列の終身雇用であれば、限られた範囲の組織や付き合い(終身雇用同士では、他社との付き合いも一生の関係)の中で「亀の甲より年の劫」と、自分の経験値を基に指導することがマネジメントと同等視されていたからと考えられます。

しかし、人も組織も流動的になった現在では、この論理は通じません。また、「業務の中身」に精通することと「人を扱う」リーダーシップやマネジメントスキルが違うことも認識が広がってくる中で、これらのスキルが重要であることが認知されると同時に、これらのスキルの学び方も注目されるようになってきています。

欧米的マネジメントは「組織中心」かつ技術的

リーダーシップやマネジメントのスキルの研究・学問化は、欧米が先んじてきたもので、かなり以前からこれらの研究は進められてきました。

 ただし、欧米的観点では、これらのスキルは「経営戦略」「人材マネジメント」「マーケティング」「財務」「経済学」等の「業務上の戦略」を立てるのに必要な観点の一つとして捉えられていて、「人材」も「組織の構成要因の取り扱い」という技術的視点から取り扱われています。そこでは、「人材」は心理学的アプローチによる「分析」対象に近い風に捉えられてきました。

日本に求められるのは「人の尊重」マネジメントトレーニング

一方、上で見てきたように、日本で重視されているのは「在職期間」という経験と「性格」、言い換えれば「人間性」です。すると、欧米的な分析的に人を扱うマネジメントスキルだけでは、日本という組織風土には足りない、という結論になります。

 ただ、「深くて長い付き合い」で培う人付き合いをベースとしたマネジメントは、今の日本社会では難しくなっていると考えられます。「深く長い付き合い」の典型例はかつて、就業時間後の食事や飲み会、週末のゴルフ等レクリエーションや、そういう機会を通じお互いのプライバシーを共有しあうこと、などがベースとなりましたが、そもそもお互いのプライバシーを聞くこと自体にも留意が必要なのが現状です。

 「人間性」に基づくマネジメントでは「個人に寄り添う」ことが求められますが、必要以上に相手に立ち入ることなしに、それでも相手との人間関係を構築するという、矛盾した対応が必要となります。「人間関係の構築」というと「相手の懐に入って」という言い方が普通ですが、現在の日本社会でのマネジメントでは「相手の懐に入らずに」、それでもどれだけ相手との人間関係を構築できるか、というのがカギということです。

 これはかなり難しいことではありますが、この設問から出てくる結論は「一方的に相手から信頼される」ようにするにはどうするか、です。人間関係論で言う「相手を変えることはできないが、自分を変えることはできる」の応用です。これを日本的マネジメントの観点で言うと、「信頼される」というのは「この人のもとで働いていると安心できる」ことと言えます。今回確認した「在職期間」を「業務知識・経験の深さ」、「個人の性格」を「人としての信頼感」と言い換えると、つまり業務的にも人間的にも「一緒にいて安心できる」ことが、マネジメントに必要な資質と言えます。

 「人としての信頼感」とは何か、を考えると「指示・発言内容が信用でき」「(他者に)ひどいことをしない」ことです。ドラッカーは名著「マネジメント」の中でマネジメントにとって重要なことの一つに「真摯さ」を挙げましたが、業務に対しても人に対しても「真摯」であること、そしてその「人に対する真摯さ」は「人・他者への尊重」です。

 まとめて言うと、「日本的マネジメント」とは、どのような人に対しても、各個人の「性格・キャラ」を重視すること、「人の尊重」を学ぶことから始めるべきと言えます。

「人の尊重」マネジメントトレーニングは、中小企業でこそ力を発揮する

この「人の尊重」を学ぶマネジメントトレーニングは、規模・従業員数の多い大企業よりも日本の99.7%を占める中小企業、特に「少人数で和気あいあい」を超えたくらいの企業規模で力を発揮すると考えられます。大企業にも必要なスキルではありますが、このスキルと関係なくシステム的に業務を進める仕組みが揃っている企業では、比較的そのスキルがなくとも業務を進めることは可能です(マネジメントの巧緻の評価は別として)。一方、上に挙げた規模の中小企業は「家族的であるには大きすぎ」「ドライな人間関係で動くには小さすぎ」、人間関係が依然として経営の重要なポイントとなりえます。「人の尊重」は、見せかけだけではメッキのようにはがれてしまうものでありますが、人との接し方、という技術的要素も含んでいます。そのための考え方・哲学と同時に、その実践に関する具体的方法を学ぶこと、その両輪が必要です。

「お互いを尊重することで円滑な組織・人間関係を構築する」、その考え方と実践方法の取得にはある程度の時間がかかりますが、このマネジメントトレーニングで取得できる哲学・技術は個人の人生を豊かにし、それが社内に広がることで会社をも活性化する会社にとっても従業員にとっても良い効果をもたらすことが期待できます。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Contact

お問い合わせ

動力マネジメントに関するご質問や研修内容に関するご相談やお見積り依頼、
各研修に関するお役立ち資料をダウンロードは以下よりお問い合わせください。

無料セミナー

動力マネジメントに関する無料セミナーを行っております。お気軽にご参加ください。

資料ダウンロード

各研修に関する資料、動力マネジメントに関するお役立ち情報はこちらからダウンロードはいただけます。

60分無料相談・お問い合わせ

動力マネジメントに関するご質問や各研修内容に関するご相談や60分無料相談はこちらからご相談ください。