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マレーシア半導体産業の新たな挑戦:世界の後工程ハブから「第2のブーム」へ

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マレーシア半導体産業の新たな挑戦:世界の後工程ハブから「第2のブーム」へ

はじめに

皆さん、こんにちは。突然ですが、皆さんが日々手にしているスマートフォンやパソコン、あるいは車の部品に、マレーシアで作られた半導体が使われていることをご存知でしょうか?実は、マレーシアは半世紀以上も前から、世界の半導体サプライチェーンにおいて非常に重要な役割を担ってきました。

特に、チップを完成品として仕上げる「後工程」(アセンブリ、パッケージング、テスト)の分野では、世界の市場の約13%を占める一大拠点にまで成長しています。しかし、マレーシア政府は現状に満足することなく、さらに大きな変革を目指しています。

今回は、マレーシアがこれまでの歴史でどのようにして半導体大国となり、そして今、2024年5月に発表された「国家半導体戦略(NSS)」によって、どのような未来を描こうとしているのかを、読みやすいブログ形式でお届けします。従来の製造拠点から、より高付加価値な設計・開発の国へと舵を切る、その壮大な物語を一緒に見ていきましょう。

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第1章:マレーシア半導体産業のこれまで

1.1 なぜペナンは「シリコンアイランド」になったのか?

マレーシアの半導体産業の歴史は、1972年にさかのぼります。この年、アメリカの半導体大手インテルが、ペナン州に工場を進出したのがすべての始まりでした。インテルの成功を目の当たりにした他の大手企業、例えばテキサス・インスツルメンツなども次々にマレーシアに拠点を設立し、ペナンは瞬く間に「シリコンアイランド」と呼ばれる一大拠点へと成長していきました。

この奇跡を支えたのは、マレーシア政府の賢い戦略でした。当時はまだ技術も資本も不足していたため、政府は「自由貿易地域(FTZ)」という特別なエリアを設置し、外国企業に対して関税や税金を免除するなどの手厚い優遇措置を導入したのです。この政策が功を奏し、インテルをはじめとするグローバル企業が集結。彼らが集まることで、そのサプライヤーも集まり、半導体製造のあらゆる工程をカバーする、堅固な「エコシステム」が自律的に形成されていきました。政府が種をまき、多国籍企業がその土壌を豊かにした。これが、マレーシア半導体産業の揺るぎない基盤を作ったのです。

1.2 世界のサプライチェーンで、マレーシアが担う役割とは?

半世紀を経て、マレーシアは世界の半導体サプライチェーンにおいて、なくてはならない存在となりました。特に得意としているのが、半導体の製造工程の「後工程」、つまり完成したチップを組み立ててテストするOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)です。この分野で、マレーシアは世界の約13%を担う、まさしく「後工程の世界的ハブ」なのです。

その強さの秘密は、単に人件費が安いというだけではありません。ペナン州を中心に、300社以上の多国籍企業、熟練した技術者、そして豊富なサプライヤーが集まる、強靭で包括的なエコシステムが何十年にもわたって築かれてきたからです。

近年、米中貿易摩擦などの地政学リスクが高まり、多くの企業がサプライチェーンの見直しを迫られる中、このマレーシアのエコシステムはますますその魅力を増しています。ゼロからすべてを構築する必要がないマレーシアは、世界中の企業にとって非常に魅力的な「投資先」となっているのです。

マレーシア経済全体にとっても、半導体産業はまさに大黒柱です。2023年には、製造業への投資認可額の56%を、半導体を含む電気・電子(E&E)産業が占めました。また、半導体集積回路の輸出額は、2015年から2023年までの間に約3倍にまで増え、国の輸出総額の24%を占める最大の輸出品目となっています。数字が、マレーシアの重要性を雄弁に物語っています。

表1:マレーシア半導体産業の主要指標

指標名 データ 出典
世界の半導体後工程シェア 13%  
半導体集積回路輸出額(2023年) 748億ドル  
E&E産業への投資認可額(2023年) 854億リンギット  
E&E産業への投資が製造業全体に占める割合(2023年) 56%  

第2章:国家戦略で未来を変える!

2.1 新たな国家戦略「NSS」の挑戦

後工程の世界的リーダーとしての地位を確立したマレーシアですが、政府は次のステージへと進むことを決意しました。それが、2024年5月に発表された「国家半導体戦略(National Semiconductor Strategy:NSS)」です。

この戦略の最大の狙いは、従来の「後工程の製造拠点」という役割から脱却し、より付加価値の高い「設計・開発」へとシフトすることです。なぜなら、後工程がサプライチェーン全体の価値のわずか10〜15%しか占めていないのに対し、前工程(ファブ)は60%を占めるからです。

NSSは、今後10〜16年間で、5,000億リンギット(約17兆円)もの巨額投資を呼び込み、さらに6万人もの優秀なマレーシア人エンジニアを育成するという、非常に野心的な目標を掲げています。政府は、この目標達成のために250億リンギット以上の予算を投じることを約束しており、これは単なる掛け声ではなく、具体的な行動計画が伴っていることを示しています。

表2:国家半導体戦略(NSS)の主要目標と財政措置

項目 内容 詳細 出典
戦略目標 投資誘致 5,000億リンギットの半導体関連投資を誘引  
  人材育成 6万人規模のマレーシア人エンジニアを育成  
財政措置 予算総額 少なくとも250億リンギットを措置  
  資本補助金 100億リンギット(期間:2023-2038年)  
  人材開発ファンド 12.5億リンギット(期間:2025-2030年)  
  ハイインパクトファンド 10億リンギット(期間:2026-2030年)  
  地場企業向けファンド 10億リンギット(期間:2025-2030年)  

2.2 半導体の「頭脳」へ!英アーム社との電撃提携

NSSの目玉と言えるのが、ソフトバンクグループ傘下の半導体設計大手、英アーム・ホールディングスとの戦略的提携です。マレーシア政府は、アーム社に10年間で2.5億ドルを投資し、同社の最先端技術や知的財産(IP)にアクセスする権利を得ました。

この提携には、3つの大きな狙いがあります。

  1. 人材育成: 1万人のIC設計エンジニアを育成するための特別なプログラムを立ち上げる。
  2. 技術供与: 優秀な国内企業に、アームのIPを優先的に提供する。
  3. 国産チップ: マレーシアで設計された半導体チップの開発を後押しする。

この提携は、アーム社にとって海外政府と結ぶ初の国家レベルの包括的な契約であり、マレーシアが単なる製造地ではなく、設計パートナーとして世界から注目され始めたことを物語っています。政府はこの提携を通じて、年間売上高15〜20億ドル規模の半導体企業を10社生み出し、国産AIチップの開発も促進したいと考えています。まさに「第2の半導体ブーム」を巻き起こすための起爆剤となるでしょう。

2.3 既存の強みをさらに上へ!先端技術への挑戦

NSSは、後工程を捨てるわけではありません。これまでの強みを活かしつつ、より高い技術レベルへと「アップグレード」する戦略を採っています。その第一歩として重視しているのが「先端パッケージング」です。

先端パッケージングとは、チップの性能を飛躍的に向上させるための最新技術であり、AIやデータセンターなどの次世代分野で不可欠な技術です。

この戦略に呼応するように、世界の大手企業も動いています。マレーシア半導体産業の先駆者であるインテルは、今後10年間で300億リンギットを投資し、ペナンに先端パッケージング工場を建設中です。また、ドイツのインフィニオン・テクノロジーズは、最大50億ユーロを投じて世界最大のSiCパワー半導体工場を建設する計画です。その他、AT&Sは次世代チップ向けパッケージ基板工場を開設し、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)に供給する計画です。

これまでの後工程という強固な土台の上に、先端パッケージングやSiC半導体といった未来の技術を積み重ねていく。これは、莫大なコストがかかる前工程への全面的な投資よりもずっと現実的で、マレーシアの強みを最大限に活かす賢い戦略と言えます。


第3章:マレーシアが持つ「強み」

3.1 投資家を惹きつける「おもてなし」

マレーシア政府の半導体産業発展は、長年にわたって磨き上げられた投資促進策によって支えられています。法律に基づいて「パイオニア・ステータス」や「投資税額控除(ITA)」といった様々な税制優遇が提供されており、企業は法人税の免除や、投資額の一部を税額から控除できるなどのメリットを享受できます。

近年では、これらの優遇措置は、従来の幅広い誘致策から、より戦略的に「先端技術」や「高付加価値分野」に絞った支援へと進化しています。NSSの下で導入された様々なファンドは、まさにその象徴であり、マレーシアが「量」から「質」への転換を目指していることを明確に示しています。

表3:マレーシアの主要投資優遇措置の概要

優遇措置名 概要 適用対象・条件(一例) 申請先
パイオニア・ステータス 5年間の法定所得の70-100%が法人税免除となる 新規投資、推奨事業、一定のマレーシア資本比率 MIDA
投資税額控除(ITA) 5年以内に発生した適格資本的支出の60-100%を控除可能 新規投資、推奨事業、拡張・再投資 MIDA
再投資控除 7年間の法定所得の100%を控除可能 既存企業の再投資(2019年以降は繰越期間に制限) MIDA

3.2 「中立」という最大の武器

マレーシアへの投資が急増している背景には、政府の政策だけでなく、世界情勢の変化も大きく影響しています。米中対立が激化し、世界のサプライチェーンが分断の危機に直面する中、多くのグローバル企業は生産拠点の分散を急いでいます。

そんな中、マレーシアのアンワル首相は、「世界が安全で強靭なサプライチェーンを築くために、マレーシアは最も中立的な場所を提供する」と宣言しました。長年にわたる政治・経済の安定性、そして成熟した半導体エコシステムを持つマレーシアは、特定の国に肩入れしない「中立的なハブ」として、地政学リスクを回避したい企業にとって、非常に魅力的な選択肢となっているのです。この「中立性」こそが、マレーシアの未来を切り拓く重要な武器となり得るでしょう。


第4章:未来への道のり、最大の壁は?

4.1 成長の足かせ:深刻な人材不足

マレーシアが壮大な国家戦略を実行する上で、避けて通れない最大の課題。それは、ASEAN主要国の中で最も深刻と言われる「人材不足」です。特に、近年の大型投資が集中するペナン州やケダ州では、工事の遅れが目立ち、企業間での熟練エンジニアの引き抜き合戦も日常茶飯事となっています。

この問題は、単に労働者が足りないというだけでなく、後工程から設計・開発へとシフトする中で必要となる「高度な専門人材」が圧倒的に不足しているという、より深い構造的な課題を抱えています。政府は、NSSで6万人規模の現地エンジニアを育成する目標を掲げ、アーム社との提携で1万人のIC設計エンジニアを育てようとしていますが、この育成がどれだけ迅速かつ実効的に進むかが、未来を左右する鍵となります。

4.2 ライバルは手ごわい!ベトナム、シンガポールとの競争

マレーシアは、半導体産業で存在感を高める隣国のベトナムやシンガポールとの激しい競争にも直面しています。

  • ベトナムの挑戦: ベトナム政府は、2050年までに自立した半導体エコシステムを構築するという野心的なロードマップを策定しました。NVIDIAAmkor Technologyインテルといった大手企業を誘致し、低コストを武器に後工程だけでなく設計・開発分野でのキャッチアップを急速に進めています。
  • シンガポールの挑戦: シンガポールは、マレーシアやベトナムとは一線を画し、より高付加価値な研究開発(R&D)と熟練労働力に特化しています。ブロードコムMicron Technologyのような大手企業との連携を強化し、最先端技術の研究開発拠点としての地位を確立しています。

マレーシアの本当の強みは、これらの国にはない「半世紀にわたる成熟したエコシステム」と「中立的なハブ」としての立ち位置です。しかし、インドやベトナムが低コストを武器に追い上げてくる中、マレーシアは「コスト競争力」と「技術革新」という両方を実現するという難しい舵取りが求められています。

表4:ASEAN主要国の半導体戦略比較

国名 主要な役割 政府の戦略・政策 人材育成目標(一例) 主要な進出企業
マレーシア 後工程(OSAT)ハブから上流工程へ 国家半導体戦略(NSS) 6万人(NSS) インテルAMDインフィニオンアーム
ベトナム 低コストの製造・テスト、設計へ 2050年半導体エコシステム構築ロードマップ 5万人(2030年まで) NVIDIAAmkor Technologyインテル
シンガポール R&D、高付加価値な製造 RIE 2025(研究開発投資計画) 3.5万人(半導体労働力) ブロードコムMicron Technology

第5章:結論と将来展望

5.1 未来を切り拓くための3つの鍵

マレーシアの半導体産業は、歴史的基盤を活かし、NSSという新たなビジョンで産業の高度化に挑戦しています。この壮大な挑戦を成功させるためには、以下の3つの鍵が重要になるでしょう。

  1. 人材育成プログラムを加速させる: アーム社との提携を成功モデルとして、より多くのグローバル企業や教育機関と連携し、質の高いエンジニアをスピーディーに育てる必要があります。
  2. 地場企業のイノベーションを後押しする: 巨額のファンドを効果的に活用し、IPを活用して独自の国産チップを開発できるような環境を整える必要があります。
  3. 「中立ハブ」としての地位を確立する: 激動の国際情勢の中で、政治的・経済的な安定を維持し、グローバル企業が安心して投資できる「中立的なハブ」としてのブランドイメージをさらに強化していくことが求められます。

マレーシアの半導体産業は、成熟した後工程エコシステムという既存の資産を土台に、設計・先端パッケージングという次世代分野への変革を加速させています。これらの戦略が着実に実行されれば、マレーシアは単なる製造拠点から、世界の技術革新を牽引する、より自律的で強靭な半導体大国へと成長を遂げる可能性を秘めているのです。私たちは、この「第2の半導体ブーム」の行方を、これからも見守っていきたいですね。

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人材不足や組織変革といった課題は、マレーシアの半導体産業に限ったことではありません。企業が成長を続けるための効果的な人材育成や研修について、こちらのコラムでも詳しく解説しています。ぜひご覧ください。

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編集者: マイソリューションズ編集部 https://hr.my-sol.net/contact/

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