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①「10手先を読む人」と「1手先を読む人」、ビジネスで勝つのはどちらか?将棋の戦略から、未来を勝ち抜く思考法 パート1

先を読む力:将棋から学ぶ、ビジネスと人生を勝ち抜く思考法 パート1

はじめに:棋士の視点が、あなたの未来を変える
将棋の棋士は、盤上の駒の動きを何手も先まで読み、勝利への道筋を描きます。この「先を読む力」は、実は将棋の世界だけのものではありません。この記事では、「先を読む力」が単なる予測能力ではなく、誰でも学び、鍛えることができる強力なスキルであるという考えを提案します。
将棋というルールが明確な世界では、この力の仕組みが非常にクリアに観察できます。そして、その根底にある「予測する思考」「資源(駒や時間)の管理」「精神的な強さ」といった原則は、情報が不完全で不確実なビジネスや人生においても、成功を掴むための重要なカギとなるのです。
この記事は4つのパートで構成されています。
- 将棋の名人の思考法を分析し、「先を読む力」の基本を解き明かします。
- その原則をビジネスの世界に応用し、将棋との違いや戦略的な意味を探ります。
- 企業が未来を見通す組織力をどう育てるか、具体的なフレームワークを紹介します。
- 最後に、この思考法を豊かな人生を送るための戦略として、個人のレベルでどう活かすかを考えます。
この旅を通じて、「先を読む力」が未来をただ待つためのものではなく、自ら望む未来を積極的に創り出すための羅針盤であることが、きっとお分かりいただけるはずです。
第1部:「読み」の秘密を解き明かす – 将棋の世界から学ぶ先見性
このセクションでは、将棋という純粋な形で現れる「先を読む力」を分析し、その基本モデルを明らかにします。これが、より複雑なビジネスや人生への応用を考える上での土台となります。
1.1 将棋棋士の頭の中:直観と論理のハーモニー
プロ棋士の思考は、単純な計算ではありません。右脳で盤面全体のパターンを捉え、直感的に「ひらめく力」と、左脳で一手一手を論理的に分析する力、この二つがダイナミックに連携して成り立っています。それは、映像のようなイメージで考える力と、言葉で論理的に考える力が融合した状態と言えるでしょう。
ここで言う「直観」とは、生まれつきの特別な才能ではありません。認知科学の視点から見れば、それは何千時間もの厳しい訓練と、数え切れないほどの局面を経験することで培われた、高度なパターン認識能力です。膨大な経験のデータベースから、無意識のうちに高速で情報を取り出しているのです。
さらに、プロ棋士は闇雲に手を読んでいるわけではありません。思考に「テーマ」を設定し、局面で最も重要なポイントに意識を集中させ、「読むべき正しいポイント」を見極めます。これは、その局面におけるビジョン(理想像)を定め、そこに向かって努力を方向づける、非常に戦略的な思考です。将棋の名人の思考は、才能だけでなく、膨大な訓練によって培われた直観、厳しい論理、そして精神的な集中力が融合した、洗練されたスキルなのです。
1.2 「読み」の技術:スピード、正確さ、そして精神力
「読み」という行為には、常にスピードと正確さの駆け引きが伴います。読むスピードを上げすぎれば、雑になって悪手を見逃すかもしれません。逆に、正確さを求めすぎると、持ち時間を使い果たしてしまいます。トップ棋士は、局面の重要性に応じて、読みの深さと広さを自在に調整する能力を持っています。このジレンマは、ビジネスの世界で言われる「分析麻痺(Analysis Paralysis)」によく似ています。完璧な情報を求めるあまり意思決定が遅れ、チャンスを逃してしまう状況です。
優れた棋士は、一つ一つの手を見るだけでなく、一連の手順を「勝利へのシナリオ」として組み立てます。これは、現在の局面から勝利というゴールまでの道筋を創造するプロセスであり、企業の戦略計画の策定と非常によく似ています。
興味深いのは、羽生善治九段が指摘するように、トップ棋士の間では技術的な読みの能力に大きな差はほとんどないという点です。勝敗を分けるのは、しばしば精神力になります。不利な局面でも冷静さを保ち、逆転のチャンスを見つけ出す力です。この事実は、「先を読む力」が単なる頭の良さだけでなく、感情や心理的な強さに深く支えられていることを教えてくれます。
1.3 現代のトレーニング:AIとの共進化
強力な将棋AIの登場は、棋士のトレーニング方法に革命をもたらしました。AIは単なる対戦相手ではなく、人間の思い込みを修正し、新しい戦略を教えてくれる客観的な先生のような存在にもなっています。AIとの練習を通じて、棋士はこれまで考えもしなかった一手を発見したり、自分が正しいと信じていた手の有効性を再確認したりできるようになったのです。
現代の最先端のトレーニング方法の一つに「完全棋譜並べ」があります。これは、まずプロの対局の棋譜をAIで解析し、疑問手や悪手を特定します。次に、その悪手が出た局面からAIに指させて、「正しい」手順を最後まで進めます。そして、棋士はこのAIによって「完璧にされた」棋譜を並べて学習するのです。この方法は、人間の理解の穴をピンポイントで修正し、学習を劇的に加速させます。
将棋界におけるAIの活用は、人間の思考が機械に取って代わられるという単純な話ではありません。むしろ、人間とAIが協力し合う未来を示しています。AIは最善手という「答え(what)」を教えてくれますが、人間である棋士は、その手がなぜ優れているのかという「理由(why)」を理解し、自分の思考法に取り入れなければなりません。これからの時代、人間の価値は、計算能力そのものよりも、AIが生み出す洞察を学び、解釈し、戦略的に活用する能力にあるのかもしれません。
パート2はこちら → https://hr.my-sol.net/media/useful/a150
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編集者: マイソリューションズ編集部 https://hr.my-sol.net/contact/