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【連載第1回】なぜあなたの会社から「上司ガチャ」は無くならないのか?

【連載第1回】なぜあなたの会社から「上司ガチャ」は無くならないのか?
元凶は人事評価制度にあった
はじめに
「今度の上司はどんな人だろう…」
配属や異動のたびに、まるでくじ引きのような不安を感じた経験はありませんか? 今やビジネスシーンで広く使われるようになった「上司ガチャ」という言葉。これは単なる流行り言葉ではなく、多くの従業員が抱える切実な問題の表れです。
驚くべきことに、調査によれば約8割もの人が「ハズレ上司」を経験したことがあると答えています。さらに、9割以上の人が「上司との関係が仕事のパフォーマンスに影響する」と感じているのです。これはもはや個人の「運が悪かった」で済まされる問題ではありません。生産性を低下させ、企業の収益にまで影響を及ぼす、根深い組織の問題なのです。
この連載では、「上司ガチャ」という現象がなぜ生まれるのか、その構造を動力マネジメント(モチベーション・マネジメント)の視点から解き明かし、どうすればこの「ガチャ」を無くせるのか、具体的な解決策を3回にわたって探っていきます。
第1回は、問題の核心である日本の人事評価制度にメスを入れます。
不公平なゲーム盤:上司に権力が集中しすぎる評価制度
「上司ガチャ」が生まれる最大の原因は、直属の上司に部下の生殺与奪権ともいえる強大な権力が与えられていることにあります。評価、昇進、ボーナス、そして将来のキャリアまで、そのほとんどを上司一人の判断が左右する。この構造こそが、「ガチャ」のドキドキと絶望を生み出しているのです。
曖昧という名の霧:主観と気分が支配する評価基準
さらに問題を深刻にしているのが、評価基準の曖昧さです。自社の人事評価に不満を持つ人の6割以上が、その理由を「評価基準が明確でないから」と答えています。
この「曖昧さ」という霧の中で、何が起きるでしょうか?
- 「ハズレ」上司は、「態度が悪い」「やる気が感じられない」といった主観的な理由で部下を低く評価します。
- 「アタリ」上司は、客観的な事実に基づき、次に何をすべきか明確なフィードバックをくれます。
ルールが分からないゲームでは、プレイヤーは結果を「運」や「審判の気まぐれ」だと感じるしかありません。これでは、従業員のモチベーションが上がるはずもありません。
「アタリ」上司の動機付け行動 | 「ハズレ」上司のやる気を削ぐ行動 |
---|---|
指示が明確で一貫している | 指示が不明確で一貫性がない |
公平・公正である | 高圧的・横柄な態度を取る |
責任を取ってくれる | 感情的ですぐに怒る |
意見をしっかり聞いてくれる | 部下のモチベーションを下げる |
部下の成長を支援してくれる | 不公平・偏見がある |
「査定」のための儀式:育成から切り離された評価面談
本来、人事評価は従業員の成長を促すためのものです。しかし、多くの企業では給与や昇進を決めるための「査定」業務と化してしまっているのが現実です。
その結果、評価面談は育成のための対話ではなく、ただの事務的な儀式になりがちです。フィードバックがあったとしても、具体的でなかったり、一方的だったりすることが少なくありません。これでは、従業員は「評価されている」のではなく「裁かれている」と感じてしまいます。
このように、上司一人に権力が集中し、評価基準は曖昧で、プロセスは育成につながっていない。この三つの構造的欠陥が、「上司ガチャ」という不毛なシステムを作り上げているのです。
次回予告
さて、問題の根源が人事評価制度にあることは分かりました。しかし、なぜマネジメント能力に欠ける「ハズレ上司」がそもそも生まれてしまうのでしょうか?
次回、【連載第2回】「ハズレ上司」はこうして生まれる。管理職の選抜と組織文化の闇では、管理職がどのように選ばれ、どのような組織文化が「ハズレ上司」を許容してしまうのか、さらに深く掘り下げていきます。
第1回:https://hr.my-sol.net/media/useful/a177